2017/6/3園芸福祉市民講座の報告(基調講演)

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2017年6月4日 日曜日

 当日は、盛り沢山だったので、かなり長いご報告になります。写真の後にも続きますので、お時間のある方は最後までぜひ!!

2017年6月3日(土)に、新潟市総合福祉会館において、園芸福祉市民講座が開催されました。

開催にあたり、「園芸福祉にいがた」の家老 洋 代表から、「園芸福祉とは何か」について触れた挨拶がありました。
その中で、特定非営利活動法人 日本園芸福祉普及協会の会長であり、東京農業大学の第10代学長でもいらっしゃる、進士 五十八(しんじ いそや)先生が、「経済福祉」よりも「環境福祉」への移行(もしくは回帰)を提唱し、『花や野菜を育てて、みんなで幸せになろう』を合言葉とする「園芸福祉」の理念と活動を啓蒙してこられたことに触れておられました。

 

 

 「経済福祉」と「福祉経済」は前後の単語を入替えたものですが、両者は違います。ざっくりと言えば、「経済福祉」とは「お金の多寡によって幸せの度合いをはかる」ということです。お金は大切です。しかし、多くのお金を得ることだけが本当に幸せなのか考えるべきところが多いのではないでしょうか。
園芸福祉活動をしている意味はどこにあるのか。改めて「いま、なぜ園芸福祉」なのかを考えて、園芸福祉の理念を広げていきたいと思います。

 

今回の園芸福祉市民講座の基調講演は、東京農業大学グリーンアカデミー主任講師で、同大学地球環境学部准教授の、大出 英子(おおいで えいこ)先生(←リンク先は東京農業大学のウェブページ)による『Power of Plants 植物と共にあるしあわせ』でした。

 東京農業大学 グリーンアカデミーは、1970年代から始まったシニアを対象とする農園芸講座(年間講座)であり、現代社会の問題として捉えられている高齢化社会において、生涯学習の重要性という観点から農園芸を取り入れた画期的なものとされており、近県で自然に富んでいるはずの地域から、遠くは四国地方から単身でといった、50歳代から90歳代までのシニアが受講しているそうです。受講者の傾向として、それまでの仕事に対して意識が高いと思われる人が多く、リーダー的存在の人が多くということでした。グリーンアカデミーでは、この43年間で1万人を超える修了生を生んでいるとのことですが、修了生自身が、目的に応じた部会、あるいは、同窓会といったものを組織しているところにも、自身や人生に対する意識の高さをうかがい知れるようです。
先にご紹介した通り、広い地域から受講者が集まっているということから、「都市部だからそういった意識が高いのであって、地方ではそのようなことにはならない」という言い訳は通用しないようです。ただし、「都市部は人口が多いから」あるいは「交通インフラが整っているから」ということは言えるかもしれません。

世代ごとに「植物を育てている人」と「植物を育てていない人」の統計を、例えばDIYといった趣味の統計がありましたが、「趣味」に費やす時間が多い世代は殆どが60歳代であり、そこから高齢あるいは若年となるに従って、減少していく様子が見て取ることができます。
大出先生は、次第にできることが少なくなっていく高齢化とは違い、若年となるに従って植物との関わりが少なくなっていることについて、周囲の環境、特に親の植物との関わりの程度が影響していると考えておられ、現時点でピークを迎えている60歳代から若年層に対する働き掛けがない限り、「植物を育てている人」の割合が減少していくとおっしゃっておられました。

グリーンアカデミーでは、「植物を育てている人」を増やし「育てる環境」を作っていくことを役割としているそうです。
私自身の解釈では、「育てる環境」とは単に場所や施設といったもののことではなく、「植物と触れ合う機会」であると思います。「植物を育てている人」がいないと、「植物と触れ合い機会」が減り、植物に興味を抱く機会も減っていきます。そのことから、自然環境などの周囲の環境変化に意識が向かなくなり、観察力の低下は、物事に対する取組みや、対人関係の築きにも影響を与え、その結果として、独善からの対立、「いじめ」などの人間関係のトラブル、人間関係のストレスから生じた精神疾患、人間関係の希薄さから生じる世代間格差やコミュニティの崩壊、地域社会や地域文化の変化や、外国との戦争などにも至るということではないでしょうか。

大出先生は、「同じ環境を守ることが大切だ」と述べられました。
植物を育てる環境を守るということは、最終的に自分自身につながると思います。従って、環境を守るという『その本当の理由は、一人ひとりの心の中にある』ということなのでしょう。

また、大出先生は「園芸療法」と「園芸福祉」の違いについて、前者は個人のもつ機能に対する効用をもたらすが、後者(「園芸福祉」)は個人のみならず他にも影響を与えて社会に効用をもたらすとおっしゃっておられました。
これからも自信をもって活動していきたいと思います。
当日、聴講した方からは、「枯らすことは、その植物に対する理解を深め、次につなげる糧となるという話が、心に響いた」、「グリーンアカデミーの取り組みに興味を抱いた」、「自分の退職後のための参考になった」という感想があったほか、「駐車場の一部をガーデニングスペースにした」という聴講者に対して大出先生からは「都心では車を所有しない人も多くなってきていることから、駐車場を利用したガーデニングの取り組みが広がっていく可能性がある」といったコメントがありました。

文責: 石黒俊之

『2017/6/3園芸福祉市民講座の報告(園芸福祉実習)』に続く

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